大阪高等裁判所 昭和28年(ネ)326号 判決
別紙目録<省略>記載の物件が控訴人の所有に属することを確認する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二、事 実
控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とする、旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において、仮りに本件物件が抵当権の目的に属しないとしても、被控訴人は善意無過失でこれを競落したのだからその所有権を取得したものである。なお競売開始決定の嘱託登記がなされたのは昭和二七年三月一七日である。と述べた外、原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。
<立証省略>
三、理 由
別紙目録記載の物件がもと訴外彦根バルブコツク製造株式会社(以下単に訴外会社と略称する)の所有であつたことは当事者間に争がなく、原審証人伊吹寿一(第一回)の証言によると同会社はこれを昭和二三年一一月訴外滋賀商事から買入れその工場に備附けたものであることは明らかなところ、右訴外会社はその所有の工場土地建物並備附機械器具に抵当権を設定して復興金融金庫から金五〇万円を借受けていたことは当事者間争のないところで、成立に争のない乙第一号証と真正に成立したと認める同第一一号証(登記簿謄本)によると右消費貸借並抵当権の設定は昭和二四年三月三〇日の契約にかかり、昭和二五年六月三〇日その登記を経由した事実を認定することができる。而して右乙第一号証中工場抵当法第三条による抵当物件目録(この目録が抵当権設定登記に提出せられたことは前示乙第一一号証に徴し推認できる)には本件物件を掲記したものと認められる記載はなく、多数の機械類を掲記した末尾に「以上建物内に在る機械器具その他工具一切」なる記載があるが、斯る表示によつては本件物件の目録として表示したものと謂い得ないから、結局本件物件は工場抵当法第三条第一項に謂う目録中に記載せられなかつたと認めるの外はない。然しながら工場の土地又は建物に抵当権を設定した場合、特に反対の定めのない以上抵当権は工場内に備附けた機械器具その他工場の用に供する物に及ぶことは工場抵当法第二条の規定によつて明らかなところで、その物が同法第三条によつて提出せられるべき目録に記載せられると否とに拘らないから、本件物件についてこれを抵当物件から除外したものと認めるべき何等の証拠のない本件では前記抵当権は本件物件にも及ぶことは当然である。
ところで控訴人は本件物件を昭和二七年四月二〇日訴外会社から買受けその所有権を取得したと主張するに対し、被控訴人は同年九月一〇日競落許可決定を得、同月二五日代金を納付してその所有権を取得したと抗争するから順次検討するに、先づ原審並当審証人伊吹寿一、当審証人平野元治の各証言、当審における控訴人本人訊問の結果と同人等の供述により真正に成立したと認められる甲第一号証、控訴会社の帳簿であることに争なくその記載に徴し真正に成立したものと認められる甲第四号証並成立に争のない乙第三号証を綜合して考えると、訴外会社は事業不振に陥り復興金融金庫に対する抵当債務の弁済を怠つたため、同金庫の承継者日本開発銀行から抵当権実行による競売の申立を受け、昭和二七年三月一七日大津地方裁判所彦根支部において前掲目録記載物件に対し競売開始決定があつたところ、当時控訴会社の代表者大堀辰哉から訴外会社に対し右工場設備一切の賃借方を申入れ、両者間に賃貸借契約を結ぶに至つたが、訴外会社は電力料金滞納により配電会社から送電を停止せられ操業することができないので、両者協議の結果、偶々本件物件が抵当物件目録に記載せられていないところから、本件物件が競売の範囲外であるものと考え差当り本件物件を控訴会社(当時日本金属工業株式会社と称していた)が買受け、その代金を配電会社に納付し送電を受けて工場を運転すべく、而して競売には右大堀辰哉が参加して競売物件たる爾余の土地建物機械器具一切を競落しようということになり、ここに昭和二七年四月二〇日控訴会社は本件物件を訴外会社から買受けその引渡を受けるに至つたこと、当時控訴会社は設立後間もなく且大堀辰哉の主宰するところであつた関係から、右大堀としては控訴会社の代表者として控訴会社の為めに買受けるもので、その代金も控訴会社から支出するものであつたが、契約当事者等は控訴会社と大堀辰哉個人との区別など念頭になかつたため、売買契約証たる甲第一号証には買主として大堀辰哉個人宛に記載せられた事実を認定するに十分で、原審における右証人伊吹寿一並控訴会社代表者本人の供述中これと抵触する感のある供述部分も当審における同人等訊問の結果に徴し未だ右認定の妨げとはならない。
次に、成立に争のない乙第四乃至同第七号証と前記乙第三号証同第一一号証に当審における被控訴人本人訊問の結果を綜合すると前示競売開始決定は即日嘱託により登記せられ、其の後競売物件は一括して競売に付せられたが競落人がなかつたため、土地建物と機械器具とが各別に競売に付せられた結果、工場の土地建物は大堀辰哉において競落し、機械器具は被控訴人において競落し被控訴人は昭和二七年九月一〇日競落許可決定を受け、同月二五日競落代金を支払つたこと、被控訴人においては本件物件も競売物件中に包含せられるものと信じこれが競落をなしたものであることを認定することができる。
以上認定の事実に基いて考察するに、本件物件が工場抵当権の目的に包含せられること前説示のとおりであつて、前記競売が抵当物件の全部に対しなされたものと認められるから本件物件も競売の目的となつていたものと認めるのを相当とするが、抵当債務者が抵当権者の承諾を得ずに抵当権の目的物を第三者に譲渡しても当然に無効とは謂い得ない。本件物件が工場抵当法第三条による目録に登載せられて居ない以上抵当権乃至競売開始決定の効力は本件物件を競売の範囲外なりと信じて買受けた第三者に対抗し得ないものと謂わなければならない。のみならず不動産競売開始決定による差押の効力は動産の差押とは異なりその占有を執行吏に移す効力を生ずるものでないから本件物件を訴外会社から買受けその引渡を受けた控訴人はその取得した所有権を被控訴人に対し主張し得るもので、爾後競落した被控訴人はこれをもつて控訴人に対抗し得ないものと解するのを相当とする。被控訴人は善意無過失に競落をしたから所有権を取得したと主張するが、単に競落許可決定があつてもこれによつて競落物件の占有を取得するものでないから、たとえ善意無過失であつてもいまだ所有権を対抗し得ない。
以上の次第で本件物件の所有権は控訴人にあることとなるから、その確認を求める控訴人の本訴請求は理由があり、これを認容すべきものとし、これと反対の原判決は民事訴訟法第三八六条によりこれを取消すべく、訴訟費用の負担について同法第八九条第九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 吉村正道 大田外一 金田宇佐夫)